フットボールやバスケットボール、野球などスポーツの応援を目的にアメリカで発祥したチアリーディングは、組体操やアクロバティックなパフォーマンスも加わり技を競うスポーツとして日本でも普及。チアリーディングから派生したチアダンスとともに「笑顔の応援で元気づける」チア精神で、近年は競技者人口も増え注目を集めている。
自然の中で体を動かすことが好きだという
つくば市の吉田彩子さん(29)はアジア人で唯一、2022年4月に行われた米ナショナル・フットボールリーグ(NFL)「マイアミ・ドルフィンズ」のチアリーダーオーディションに挑戦し、200人を超える受験者の中から厳しい審査を勝ち抜き合格をつかみ取った。
9月からのシーズン開幕に向け近く渡米し、新天地で新たなスタートを切る。
大阪府出身。
幼稚園の時にチアリーディングの強豪・箕面自由学園高校チアリーダー部の迫力あるパフォーマンスに圧倒されフットボールクラブの応援団に参加したのがチアとの出合い。
きらびやかな衣装を身に付けポンポンを振る応援にときめいた。
小学4年時に父親の仕事の関係でつくば市へ越してからしばらくチアと離れていたが、市内のイベントで行われていた体験会に参加し、久しぶりに胸が高鳴った。
事あるごとに積極的に体験会に参加するようになり、次第にやりたい思いが募ったが当時つくば市には教室がなく、体験会で指導していた奥寺由紀さんが彼女の熱意をくみ取り「つくばオールスターチア」を設立。
「『チアを習いたい女の子が1人いたから、つくばオールスターチアがある』と言ってもらいました。感謝しかありません」。
1期生として加入し、中学3年まで所属。柔軟性や筋力を鍛える練習にも取り組み大会にも出場した。
「2分30秒の本番1回のために何十回、何百回も技を繰り返して体に覚え込ませる地道な練習でしたが、それ以上にやり切った時の達成感は何物にも代えがたく根性も付きました。命を預け合うチームメートと深い信頼関係を築けたことは、その後の自信になっています」。
仲間と同じ目標に向かって取り組む充実感を味わった。
一方、単身大阪に戻り進学した箕面自由学園高校のチアリーダー部では苦い経験もした。
10連覇がかかった3年の大会でライバル校に敗れ連勝記録がストップ。絶望し、悔しさがこみ上げた。だが、この経験がチアを続ける原動力に。
「高校の練習が辛過ぎたので、もし勝っていたら辞めていたかもしれません」。
負けたままでは終われないと、更なる高みを目指し帝京大学に進学すると2012年のアジアオープン大会で優勝。
高校時代の悔しさをバネに、壁を一つ乗り越えた。
身長153㎝の小柄な体格を大きく見せるためにもっと表現力を強化したいと吉田さん
卒業後は富士通のチアリーディング部に所属。
2018年、米国のNFLラムズのキャンプで現地のチアリーダーから振り付けを教えてもらう機会が一つの転機になった。
「ダイナミックな動きで一人ひとりが自分の魅力を理解しアピールしているんです。もちろんフォーメーションがそろっていることは大切ですが、もっと自分の個性を出していいんだと衝撃を受けました」。
2020年からはプロフェッショナルチアダンスチーム「東京ガールズ」で芸術性の高いパフォーマンスに挑戦。
中にはNFLのチアを経験したメンバーもおり、自身も本場でのチアを意識するように。
とは言え実際のゲームを現地で観戦したことがなく、チームの雰囲気を肌で感じたいと単身渡米し受験。
マイアミ・ドルフィンズは、憧れの振付師のもとで踊りたいと挑戦した。
オーディションまでにバク転を習得し一次審査で披露、最終審査のソロでは和服で日本らしさを表現した。
「緊張もしましたが、憧れの振付師の指導で踊れる幸せな時間でした」。
合格発表で自身の名前が呼ばれた時は「0.3秒喜びましたが、想定外の合格にすぐに不安が襲ってきました」と苦笑。
しかし、高校生の時の苦い経験がチアを続ける原動力になったように、どんな時もピンチをチャンスと捉えて進んできた。
「チアで笑顔の輪が広がることがやりがい」。
持ち前の表現力で、海の向こうでもたくさんの人に笑顔の花を咲かせていく―。