かすみがうら市にあるみやじま牧場の「霞浦牛(かほぎゅう)」が、3月に実施された全国肉牛事業協同組合主催「第12回全国肉牛事業協同組合枝肉共励会」の交雑種部門で、全国87頭の頂点に立った。ホルスタインのメスと黒毛和牛のオスを交配させて生まれた第一世代「F1」と呼ばれる種類の牛の中で、サシの入り方や肉の色など多岐に及ぶ審査を制しての快挙。同大会に挑戦すること12年、念願の日本一の称号を手にした。
10人のスタッフで1200頭の牛を飼育する牧場の朝は忙しい。
「7時半から9時半までの2時間は立ち止まる暇がない」と話す農場長の木村学さん(43)は、東京生まれ東京育ち。
東京農業大学を卒業後、鹿児島県の牧場で4年間経験を積み16年前に縁あってみやじま牧場へ。
60年ほど前に酪農でスタートした同牧場は、40年前に肉牛へ転身。
木村さんは入社後、社長と二人三脚で切り盛りし、その2年後に運営のバトンを渡された。
入社当初は牛そのものよりも世話をすることにやりがいを感じていたが、手をかけた分だけ成長する姿を目の当たりにし、真正面から牛と向き合うようになったという木村さん。
「顔も性格もみんな違うんですよ」と言いながら2本のほうきを手早く動かして前日のエサの食べ残しを台車へ運び、残ったエサの量から健康状態を把握。牛は非常に繊細で、他の牛の唾液が付いたエサを食べないためエサやりは複数回。
「他の牛を押しのけて食べる子もいれば自分のところに運ばれたエサだけを食べる子もいる。どの子もちゃんと食べられるように配慮しないといけないので、栄養士も給食当番も保健の先生も兼ねています」と笑う。
当初は輸入飼料の価格高騰に伴うコスト削減でやむを得ず豆腐かすやビールかすなどをエサにしていたが、10年ほど前に市場に出荷できない食品を使ってほしいと農家から声がかかったのを機に独自のエサの配合を模索。
「前例がないことだったのですべての食品を文献で調べて少しずつ牛に与えていきました」。
草食動物の牛に動物性のエサはNG。
植物でもアレルギーを引き起こす可能性がある。
固いサツマイモでおなかを壊すなど悪戦苦闘の連続だったが、牛の反応を見ながら試行錯誤した結果、サツマイモや米は蒸して発酵させ、トウモロコシは3カ月寝かせて1年分保存するなど、ひと手間かけることで独自のエサを確立した。
「大変でしたが、最後は牛が答えをくれました」
現在は7割以上の原料を国産でまかない、サツマイモやレタスなどを近隣農家から仕入れるほか、飼料米は地元かすみがうら市産を使用。
トウモロコシを自家栽培するなど、地産地消を実現した。
エサや飼育環境など牛にとって何が良いかを考え実践してきたことで、安心とおいしさが付いてきた。
生産者の顔が見える野菜が市場に出回っているように、自分たちが育てた牛を多くの人に知ってもらいたいと、かすみがうら市から全国へ発信する思いを込めて昨年2月に「霞浦牛」と命名。個人ブランド化は味に対する自信の表明でもある。
今後は品質の安定を図り、肉質等級A4ランク以上の比率を上げることが目標だ。
軟らかく甘みがある脂と深みのある上品な香りが特長の霞浦牛は、ナンバーワンの称号を得て、さらなるオンリーワンの味を追求する。