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2019年1月21日(月)

夕焼け空、やさしい赤色

父はいつでも「そばにいるよ」

つくば市内の住宅街に母娘が切り盛りするささやかな手作りカレー店が開店し、間もなく1年を迎える。自宅を改装した店のキッチンには、3年前に亡くなった小児外科医齋藤浩さん(享年73)の写真が飾られ、「生きることは食べること」と料理を振る舞う母娘を傍らでいつも見守っている。


仲良く厨房に立つ母娘に、茜色の夕陽が差し込む=1月8日、つくば市松代のKoh’s

悲しくても、腹は減るー。「でも、おいしい物を食べたら誰でも元気が出てくるじゃないですか」。齋藤さんの妻の真喜さん(69)が朗らかに笑う。

仕込みは毎朝7時から。昼は接客、孫が帰宅する夕方まではレトルト商品を作るなど思い描いた「悠々自適」とは程遠い毎日。最初は「家庭料理の延長みたいなもの」で商売していいのだろうかと不安だったが評判は上々で、常連客から「おいしかった」「居心地良いね」と言われ元気をもらう。店のロゴは生前夫がカルテや買い物などの支払いで書いた「SAITOKOH」のサインを組み替え4人の子どもたちが制作した。

店を始めてうれしかったことはもう一つ。仕事人間だった夫の昔の同僚や患者らがふらりと訪れ、在りし日の思い出を語っていく。伴侶も知らなかった横顔が慌ただしい日常にふと現れるとき、真喜さんは「夫はまだ私たちの心の中に生きているんだな」と思う。

患者に寄り添う

石岡市出身の齋藤さんは明治から続く医師の家系に生まれた。大学ではラガーマンとして活躍し、卒業後は小児外科医として日大病院に勤務。「病人だけでなく患者の人間関係まで診るのが医師の役目」と患者との話題は家族構成や学校、趣味まで広がった。

たとえ家族旅行中でも事故に出くわせば現場で処置を施し、皇居で行われた叙勲の受章式では居並ぶ面々を前に体調不良で卒倒した人を介抱。「とにかく人間が大好きな人だった」と真喜さん。

2002年、肺に影が見つかった。がんは大腸から肝臓へと転移し08年に筑波大学附属病院で10時間超の大手術を受けた。「家に帰れるようにしてほしい」と懇願され執刀した大河内信弘さん(65歳、現水戸中央病院院長)。県内の医師不足が課題となる中、齋藤さんは10年に茨城県医師会長に着任。早くから在宅医療体制や地域包括医療の必要性を訴え全国各地を飛び回っていたという。

幾度病に伏しても不死鳥のようによみがえり現場主義を貫いていたが14年夏に再入院。担当医だった奥田洋一さん(39歳、現水戸中央病院外科医長)は仕事終わりにベッドで聞いた大先輩の思い出話が忘れられない。駆け出しの頃、身よりのない子どもを手術しスタッフ全員で世話したこと、奥さんとの慣れ染めー。どの話も慈愛にあふれていた。

「人は二度死ぬ」


茨城県医師会長などを歴任した齋藤浩さん。真喜さんいわく「強面だけど、気配りの人」

2015年春ごろから食事ができなくなり、真喜さんが病室に持ち込む手料理は看護師がそっと処理。「おいしかった?」「うん、おいしかったよ」。口を付けていないのはお互い了承済み。思い返せばタヌキのばかし合いのような会話ながら、後年「食べることは生きること」と末娘と店を始めるきっかけにもなった。

夫の死後、真喜さんはテレビで永六輔の言葉「人は二度死ぬ」にはっとした。最初に肉体的な死が訪れ、存在が忘れられた時に二度目の死がやってくる。娘と「お父さんはここにいるよね」とうなずき合った。

夕暮れ。翌日の仕込みをしていると、学校給食のようなシンプルなカレーが好きだったことや、病床で「死ぬのは怖くない。残された家族が心配」と回診の医師に漏らしていたこと、そして、久々に帰宅した際に孫と交わしたささいな会話まで思い出す。

「じぃじ、茜色ってどんな色?」「…やさしい赤色だね」。窓から西日が差し込むいつものこの時間、残された家族が形のない存在に見守られていることを、深く感じる。

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