Joyoliving News : 2020年07月06日掲載

書くことは生きること

阿見町出身の千葉ともこさん

公募型文学賞「松本清張賞」の第27回受賞作品がこのほど発表され、阿見町出身の県職員・千葉ともこさん(水戸市在住、41歳)の『震雷(しんらい)の人』が栄誉に輝いた。自身初の長編となった同作は、中国王朝・唐の時代を舞台に兄と妹の成長を色濃く描写。9月の出版も決まるなど小説家への一歩を踏み出した千葉さんは、「数多くの作品を書きたい」と飛躍を誓う。


「執筆は早朝と決めています」と千葉さん(6月21日=水戸市内)

長編エンターテインメント小説が対象の「松本清張賞」。昨年7月から募集が始まった第27回への応募677編から、千葉さんの『震雷の人』を含む4編が授賞候補作として事前選出された。

京極夏彦、辻村深月などが名を連ねる選考委員会は、5月29日午後3時からオンラインで開催。水戸の自宅でひとり、緊張や期待などさまざまな思いを胸に「その時」を待っていた千葉さん。

雷注意報が出るなどの荒天が晴れやかな青空へと変化した午後5時過ぎ、受賞の吉報が入った。「知らせの瞬間、足が震えました」

演劇から小説へ

1979年生まれ。子どものころは気に入った絵本を何度も繰り返し読み、映画やアニメにも夢中になった。次第に演劇に興味を持つようになり、土浦一高時代は演劇部に所属。筑波大学では演劇サークルで台本と演出を手掛けた。

卒業後も演劇の道に進むつもりだったが、2001年の卒業時はまさに就職氷河期。かねてから憧れていた劇団が研修生を募集しないことを知り一度は落胆したものの、すぐに方針転換した。「作品の中で役者、照明、音響、すべてを表現できる小説家になろうと決意しました」。

本格的に腕を磨くため、都内の山村正夫記念小説講座の門をたたいた。月2回の講座は約18年受講。02年の茨城県庁入庁後も業務外の時間にこつこつと執筆を続けた。最初の10年は、優秀な仲間への気後れもあり一歩引いてしまっていた。「コンクールにもまったく応募しませんでした」。

その後、結婚と出産を経験。人間の誕生の尊さを実感したことが、価値観が変わる契機となった。「一度きりの人生、とことんやってやろうじゃないか」。作家を目指す気持ちにスイッチが入った瞬間だった。

産後間もなくながら睡眠時間をぎりぎりまで削り、時代小説を書くために歴史の勉強を開始。半年ほどで身体は悲鳴を上げた。「医師から入院を命じられました。育児、家事、勉強。肩に力が入り、頑張り過ぎていました」。

生活を見直し、1日24時間をバランス良く割り振り。「それぞれ集中して、ちゃんと休む」生活を心掛けた。生活を変えたことで執筆にも弾みがつき、第31回オール讀物新人賞に短編を応募。最終候補に残り受賞作と接戦を繰り広げたが落選した。

自信作だったこともあり大きなダメージを受けたが、次の目標をプロも応募する松本清張賞に定めた。「悔しさをバネに、次は長編で勝負しようと思いました」

『震雷の人』には時代を動かす激しい意志を持つ人物という意味で実在した中国の書家・顔真卿を登場させたが、主人公にはしなかった。代わりに架空の兄妹が安禄山の乱で激変した世を生き抜く姿を描き、自ら体験した就職氷河期やリーマン・ショック、東日本大震災など現代の世相の変化を作品世界に重ねた。

何度も推敲を重ね、約1年掛かりで完成した作品が受賞したことに「無我夢中で向き合い書き上げました。世に出すことができ、万感の思いです」。

日々の任務は「4役」


執筆中の1コマ。「次の作品が重要。気を抜かずに丁寧に書きたい」

応援してくれている夫や息子、娘、両親など家族の支えが原動力。夜10時頃、子どもの寝顔に癒やされつつ一緒に就寝し、早朝3時半ごろにそっと起床。

パソコンで数時間執筆してから出勤する。「睡眠を取った後なのですごく頭がクリーン。集中できるんです」。家事や子育て、「やりがいを感じている」という県職員として勤めながら作家として開花し、1人4役を日々こなす千葉さん。

「書くことは自分が生きる上で必要なことと実感しています。今後も好きな中国時代小説など多くの人に楽しんでもらえる作品をたくさん生み出したい」


【松本清張賞(まつもとせいちょうしょう)】

1992年(平成4)に死去した作家・松本清張の業績を記念し94年に始まった文学賞。公益財団法人日本文学振興会主催、文藝春秋運営。未発表の長編作品が対象で、選考会の結果は『オール讀物』誌上で発表される。受賞作は文藝春秋から単行本として刊行。1998年実施の第5回では、横山秀夫が『陰の季節』で受賞している。

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