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2019年1月4日(金)

本を閉じれば、世界が変わる

漫画家 羽賀 翔一さん

昭和初期に刊行された吉野源三郎著『君たちはどう生きるか』の漫画化で注目の羽賀翔一さん(32)。昨今の出版不況の中で累計200万部超のヒットとなったが、誰もが感じる日常の疑問を丹念にすくい上げ作品に昇華させる姿勢は変わらない。「考え続ける」漫画家のこれまでと、これから。


1986年つくば市生まれ。大学在学中の2010年『インチキ君』で漫画家への一歩を踏み出す。17年、児童文学者・吉野源三郎原作の『君たちはどう生きるか』(1937年)を漫画化。中学生のコペル君が「おじさん」と交流しながらさまざまな物事を考え学ぶ姿を描きベストセラーに。一方で『宇宙兄弟』の小山宙哉さんのアシスタントも継続中。

―子どもの頃はどんな漫画が好きでしたか。

自由帳に「ドラゴンボール」などをまねして描いて母親や友だちに読んでもらっていました。オリジナルは小5の時に「べんきょう」というタイトルでノート7冊分描いたのが最初かな。分度器がモチーフのキャラ「分度マン」とか「作文つく〜る星人」とか(笑)。僕はクラスの中心にいるタイプではなかったんですが、絵を描いていると自分の周りに輪ができるのがうれしかったですね。

―雑誌に初投稿したのは大学4年の時ですね。

中学生頃から「自分でなければ描けない作品」を意識するあまり描けなくなって…。大学では教職課程を取りましたが「このまま社会人になっていいのか」と迷い、またペンを執りました。

講談社の「MANGA OPEN奨励賞」を受賞した『インチキ君』を描き上げた時はめちゃくちゃ手応えがありました。その頃村上春樹さんの小説を愛読していて、漫画と同時に実は小説も書いていた。自分が考えたことをどうやれば質の高いものとして世に出せるか模索していた時期でした。

―次の『ケシゴムライフ』はネーム(下書き)がボツ続きだったそう。

前作で賞を取って少し慢心していたのかも。実際はストーリー優先でキャラ作りは未熟。それで、どうすれば登場人物の意思や感情が伝わるか試行錯誤し、自分の気持ちやこれまでの経験を入れ込んだのですが。

―ご自身の経験が色濃く反映された作品ですね。

1話目の高校生が自転車で走るシーンは、まさに母校の土浦二高までの通学路。小さい頃に祖父と一緒に絵を描いたり、柱に身長のしるしを付けたりしたエピソードもそのまま。自分が空気感まで記憶していることを描きました。

作品づくりに特別な経験が必要なのではなく、誰もが経験する出来事の中で取りこぼしている感情や気付きがあるはず。それを拾い上げていたような気がします。

―デビュー後はヒット作に恵まれなかった。

2年掛けた『君たちはどう生きるか』が売れなければ、仕事を考え直そうかと。「ただの漫画版ではなく次の80年に残る作品」を作り上げるため吉野源三郎さんの息子さんにも話を伺いました。結果的にベストセラーとなりましたが、本棚の隅などにひっそりと置き続けられ、「いつか」「誰かが」時々読み返して考えを整理するきっかけになれば。

―今は「父親探し」がテーマの作品に取り組んでいるようですね。

以前描いた『ZOOO』では、母子家庭に育った僕の父親像を表現し切れなかった。なかなか進みませんが、楽しみにしてくれる人のためにも投げ出せない。

―描き上げた時に自分がどう変われると思いますか。

処女作の『インチキ君』を描き上げた時は体中の細胞が新品に入れ替わる感じがした。あれから一度もそんな感覚になっていなくて。

―味わうためには父親像を解明したい?

いやいや。自分の中にある「もやもや」を物語に昇華させられればいいのです。良い作品を読んだ後、本を閉じると目の前の景色が違って見えることがあります。それは、日常の「気付き」が広がるということ。例えば、玄関にある靴を見て履いている人間の顔つきや口癖などを想像できるような、そんな本を描きたいですね。

―羽賀さんは「考える漫画家」ですよね?

漫画家は誰もが深く考え仕事していると思います。そんな代名詞を頂いたら先輩方に怒られますよ(笑)

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