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2017年9月25日(月)

お祭り少年、筆一本で人つなぐ

橘流寄席文字 橘 吉也さん

芝居文字、籠文字、相撲文字など江戸時代に盛んに使われた「江戸文字」。中でも寄席文字(橘流)の一門に6年の修業を経て今年門弟になった橘吉也(本名・木佑也)さん(石岡市出身・27歳)が、先日行われた「常陸國總社宮例大祭」で看板やポスター、はんてんや提灯の題字を手掛けた。地元を愛するかつてのお祭り大好き少年が、今は文化を受け継ぐ職人として街を盛り上げ、自身の理想をひたむきに追い求める。


最近は手書き文字をスキャンし、データ入稿にも対応する

書き始めは、シャープペンなどでガイドラインになる当たりを付けるだけ。下書きは一切せず、あとは墨を含ませた筆を乗せて、頭の中で組み立てたデザインを形にする。

書道の二度書きはご法度だが「寄席文字は全体のバランスが命。文字を単純に組み合わせるだけではダメなんです」。

例えば「中田」と「田中」など使う文字は一緒でも配置が違えば全く別物。「それが手書きの妙なんです」。

お祭り少年、職人志す

子どもの頃からお祭りが大好き。絵や文字を書くのも好きだったため、いつからかはんてんや提灯に書いてある「太くて独特な文字」に夢中になった。県内の大学に進み、就職を意識し始めた大学3年の頃。祭り文化に関わる仕事がないかと京都や栃木など各地を見て回った。

転機は石岡のみこし修理も手掛ける栃木県のみこし職人の元を訪れた時。親方に器用さを見込まれたが、「本当にやりたい仕事は何か」と問われた。江戸文字への興味を話すと「いずれ誰かが継がなくては途絶えてしまう」との親方の明快な答えに目からうろこが落ちた。

家族にも理解を得て、3年通った大学を中退。2010年11月、以前から憧れていた橘流寄席文字・江戸文字書家の橘右之吉さんの門をたたいた。

心に決めた師

故橘右近師が寄席文字として確立し、寄席の看板や高座のめくりに使われる独特の太い筆致が知られる橘流。中でも右之吉さんの文字に「うまく言えないけれど、純粋に心ひかれていた」。

電話をすれば断られてしまいそうだったためアポを取らずに訪れた湯島の工房は3度目の正直でようやく会えた。見よう見まねで書いた字を持参したが、「この世界では食べていけないから帰った方がいい」と諭された。それでも2時間ほど粘り、なんとか次の約束を取り付けた。

2度目に会ったときは工房近くの老舗天ぷら屋へ。天丼をごちそうになったが、緊張のあまり「正直味なんか全く覚えていません」。仕事の話はなかったが「またおいで」と言ってもらえた。数カ月通い続け、熱意に打たれた師匠から「そんなにやりたいなら一からやってみるか」と声が掛かった。

理想に追いつく

石岡と湯島を往復しながら修業の日々が始まった。文字の基本となる漢数字を来る日も来る日も書き続けた。墨のつけ方や筆の運び方、止め方にはらい方など、とにかく師匠の所作を見て学んだが、割付(レイアウト)を見せると「よくないな」とバッサリ。「頭は帽子の台じゃねえ。使うためにあるんだ」と江戸っ子らしい洒落っ気たっぷりの追い討ちを掛けられた。

ある日、筆を探して訪れた店が偶然にも師匠愛用の店だった。うれしくなり右之吉さんに話すと「行くところが一緒だな」との返事。少しでも理想に追いつこうと寄席に通い、洋の東西や時代を問わずポスターや書籍などを見ては学ぶ日々が6年余り続いた。

文字でつなぐ


「常陸國總社宮例大祭」ポスター

今年1月、晴れて「橘吉也」の名をもらい、橘流寄席文字を継承し後世につなぐことに身が引き締まった。師匠の「地元は大切にしなさい」の言葉通り、石岡の祭りでははんてんや提灯の題字を手掛け、常陸國總社宮例大祭のポスターや奉納相撲の看板に筆を振るった。

總社宮から真摯(しんし)な仕事ぶりに胸の控紋に神社の名が入ったはんてんを贈られ、「僕みたいな若手に期待してくれてうれしい。でもまだまだ勉強」と謙虚。

橘流寄席文字は興行が右肩上がりに、客が大入りになるよう隙間なく書く—。だからこそ「ただの看板書きじゃなくて、文字で人と人をつなぐ、頼んでよかったと思われる書き手になりたい」。

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