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2017年3月18日(土)

歩み遅くとも、理想は高く

88歳の元テーラー大高さん

ハナッコ(花)やマメッコ(豆)、カチャラズなどの模様をつなげて作る津軽地方伝統の「こぎん刺し」の制作に打ち込む元テーラー・大高実さん(88)の手仕事展が、3月22日(水)まで石岡市のまちかど情報センターで開かれている。戦中に始めた針仕事は、9年前に店の看板を降ろした今も大切なライフワーク。毎日こつこつと縫い進める文様には、静かに理想を追い求めた仕立て屋の人生が詰まっている。


「手仕事は急いだって仕方ないからね」。ひと針ひと針丁寧に、正確に刺していく

「こんなに細かく縫うんですか?」「裏もきれいで、どっちが表か分からない」

2016年12月、石岡市内の作家らが集まったハンドメード展。大高さんが作品や制作工程を披露すると、たちまち人の輪ができた。

眼鏡もかけず、黙々と細かな布目に針を刺していく。見学者の歓声をよそに、「本を見て勉強すれば誰でもできますよ」と照れ笑いする。

ウサギとカメ

1928年(昭和3年)、石岡市に生まれた。2歳のとき小児ポリオに罹患して右足に障害が残り、尋常小学校時代は心ない言葉も投げられたが両親は決して甘やかさず、人の倍頑張るよう諭した。特に母親からは左手に障害を負いながら大成した野口英世の話を聞かされ、「歩みは遅くてもこつこつ真面目に努力すれば、カメもウサギに勝てるんだって何度も聞かされてね」。不自由な片足を引きずっての登校は時間がかかるからと毎朝兄弟より30分早く家を出て、6年間1日も休まなかった。

友人と運動などができず歯がゆい思いもしたが、手先の器用さを生かせる手工の時間はヒーローだった。ある日の授業で竹の茶さじを作ると先生が出来を褒めてくれたばかりか、校長先生に贈られ愛用品にしてもらえた。

お国のために


会場には、こぎん刺しの小物やこれまでに制作した作品が並ぶ

やがて太平洋戦争が始まると同年代の男子が徴兵されていく中「自分ができることは何か」と考え、神田にあった軍服工場で働くため14歳で上京。配属先ではオーダーメードスーツのように丁寧な縫製で将校用の軍服を作った。足踏みミシンなど初めての体験ばかりだったが、年配者が多かったこともあり熱心に働く大高少年は周囲にかわいがられた。

終戦を迎え地元に戻ると、両親の勧めもあり近所の洋服店で毎朝5時から夜11時まで7年間洋服作りのいろはを必死で学んだ。しかし、設計図ともいえる型紙の制作は行っておらず、「これではすべて学んだとは言えない」と一念発起し新宿の専門学校に飛び込んだ。

その後、結婚を機に大高実洋服店を開業。接客から配達、経理までこなし、仕事に脂が乗った40歳の時に第5回国際紳士服創作展に初出品。湿気の多い日にはスーツにしわができてしまうが、「天候に左右されないものを作りたい」と試行錯誤。行き着いたのは「だったら最初から湿気を吸わせればいい」という逆転の発想だった。浴槽に湯を張った自宅の風呂場で仕立てた作品は仕上がりの美しさや流行を捉えた色・デザインが高く評価され、内閣総理大臣賞に輝いた。名誉のスーツは店先に飾られ、自身の仕事を見守ってくれた。

今、できること

テーラーの仕事を引退しても職人の魂はくすぶり続けた。折り紙手芸や布を貼り合せて作る押し絵、パッチワークなどに挑戦し、6年ほど前からは津軽地方の伝統的な刺しゅう「こぎん刺し」を始めた。針を持って74年。つらく苦しいことも多かったが、やめたいと思ったことは一度もない。「うちの親は偉かったよ。おかげで今もこつこつやることは苦じゃない。まぁ、やめてもほかにできることがなかったしね」。

毎朝5時になると、今は作業場になった元店舗の椅子に腰を下ろす。傍らには、偶然見つけた詩人サミュエル・ウルマンの詩「年を重ねただけでは人は老いない。理想を失う時に初めて老いがくる」の切り抜きを置いている。かつてお国のために針を持った職人の手―。今は純粋なもの作りの楽しさをゆっくりと追い求めている。

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