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2013年1月4日(金)

職人として役を演じる。勝負はこれから

本田 博太郎(ほんだ ひろたろう)さん

シリアスからコミカルまでどんな役でも見事にこなす俳優の本田博太郎さん(61)は水戸市出身。売れない時代に経験したさまざまな仕事や人との出会いが「どんな指導書にも勝る演技の手本になった」と独自の人間観を表現し、人気や名声に踊らされず「あくまで一職人」を貫き通す。故郷・水戸市ゆかりの映画「桜田門外ノ変」への出演は、亡き父に捧げた。


受けた仕事は倍にして返す

「たとえワンシーンでも、根のある役ならやらせていただきますよ。主役とか脇役とかは関係ありません」

続く言葉を秘めたような鋭くも優しい視線を向け、真摯に話す口調は静かで滑らか。
「生意気でうぬぼれ屋だった」という30代・40代を経て、名脇役の第一人者となった60代の今は「普通に一生懸命生きることが大事。生き方が演技に出る」と力説。
役づくりのために伸ばしたというひげにも、さり気ない役者魂が込められている―。

◇   ◇   ◇

18歳で上京。役者になることを夢見て文学座研究生を経て劇団青俳へ。アルバイト生活は10年ほど続き、あらゆる仕事を経験しながら社会に生きる人の営みや葛藤、職人魂など多くを見聞きし、図らずも後の演技の土台となった。
それでも、若くして結婚し子供が生まれると目の前の生活に追われ、夢を追い続ける気持ちが揺れた。
そして29歳だった1979年、「この舞台を最後にしよう―」と臨んだのが蜷川幸雄演出の舞台「近松心中物語」。それが、人生を変える運命の舞台となった。

主演の平幹二郎が急病で降板し、代役に大抜擢。平の演技をずっと舞台袖から見ていた日々が翌日から主役の日々に変わり、ただ夢中でエネルギーを出し切った。舞台は絶賛され一躍時の人となり、続く「ロミオとジュリエット」も好評を呼び79年のゴールデンアロー賞演劇部新人賞を受賞。
その後、舞台からテレビ、映画、コマーシャル、ナレーションなど仕事の幅を大きく広げ、存在感のある演技は誰もが認めるところ。


「自分は役者という職人だと思っていますから、いただいた仕事は2倍、3倍にしてお返して喜んでもらう。それが務めです」

例えば尊敬する故大滝秀治や山崎努のような、せりふがなくても座っているだけで演技がにじみ出る職人技。衣装を着た途端に役の魂が舞い降りる職人技に1歩でも近づきたいと思う。
「パターン化した演技や人と同じ演技はダメですね。人に言われるまま動くのも苦手ですから、会社務めはできません」。

◇   ◇   ◇

父との両輪

四人兄弟の末っ子。自己主張が強く、敷かれたレールの上を歩くのが嫌い。ましてや、役者なんてとんでもないものになった自分は家族の中の「突然変異」だと笑う。
9歳で母を亡くし、父が男手一つで4人を育て弁当も手づくりしてくれた。寡黙で多くを語らない父だったが、その心にはいろいろなものが詰まっていた。
苦しい家計の中、唯一の楽しみは父と一緒に映画を見ること。それもドロドロした人間の業や悲哀を描いた巨匠監督の作品がほとんどだったが、子供ながらに「完璧でなく未完成な人が真剣に生き、もがいている姿」が強く心に残った。

そんな映画を見せてくれた父は60代で逝き、自分が同じ世代になってその存在が一層身近になった。
「父と自分はいわば車の両輪のようなもの。父だったらどうだろうと思いながら演じることもあります」

年に2回の墓参りを欠かさず、墓の前で「親父、これでいいのか―」とあれこれ話をする。
水戸市で撮影された「桜田門外ノ変」では水戸藩氏・関鉄之助らに資金援助をしたり命がけでかくまった富農・桜岡源次衛門を演じ、台本の隅に「亡き父に捧げる」と書いた。
役者として活躍する姿を見せられないうちに逝った父への、ささやかな親孝行を「少しは褒めてくれたかも」。

◇   ◇   ◇


すべての原因と結果は自分にある

浮き沈みの激しい芸能界での仕事は「あるときスーッと潮が引いてハタと気がつく―。その繰り返し」。
大事なのは「ブレずに堅実に、自分を生きること」。
そのため、どれほど経験を積んでも「自分はセミプロ」との気持ちで全力で取り組むことを心掛けている。

「まだまだ発展途上。これからが勝負です。もっと自分を磨かないとね」

朝起きて初めにするのは、机に座って好きな書や焼き物の書物をめくること。そして、時間を見つけては一日中ギャラリーを巡って作品を鑑賞することもある。
さらに、夫婦で愛犬の散歩に出ることもあれば近所のなじみの店にも気軽に行く。

「年を重ねたら頑固ジジイになりたい。超極悪人も演じてみたいし―」。勝負はこれから。




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