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記事配信 [2007-09-10]
 

“口笛”が運んだ夢を追って

口笛奏者 漆原 紳壱さん

今年4月、アメリカで開かれた口笛世界大会の成人男性の部で2位に輝いた牛久市の漆原紳壱(しんいち)さん(43)は、口笛の楽しさを伝え広めようと県内外で活動。紆余曲折の人生の友としてきた口笛が注目される今、将来の夢が大きく膨らむ。

8月28日、東京・国立の国立音楽センターで講師を務める分山貴美子さん(35歳、東京都)の口笛教室に、漆原さんがゲスト奏者として招かれた。

生徒は初心者の3人。「この前の世界大会にも出場した漆原さんです」と紹介した後、分山さんのピアノに合わせて生徒たちが一人ずつ口笛を吹いていく。いつもとは違う教室の雰囲気に、どの口笛も消え入りそうに弱いが、分山さんのたたく鍵盤は根気強く、生徒たちの口笛が「ド」や「ミ」の音を奏でるまでゆっくりと待つ。そんな様子を目の当たりに、「いつか教室を開きたい」と夢を描く漆原さんにとっては、ゲスト参加と同時に教えるノウハウを身に付ける場でもあった。ウオーミングアップを終えた午後8時、漆原さんを交えた生徒4人が分山さんを囲む教室は本格的に始まった。

◇   ◇   ◇


分山貴美子さん(左)の教室で演奏する漆原紳壱さん(中央)と口笛仲間の高津文彦さん

テレビやラジオなどで口笛が取り上げられる機会が増えた背景には、今年4月、アメリカ・ノースカロライナ州で開催された口笛世界大会での日本勢の活躍がある。

クラシック部門1曲5分以内、ポピュラー部門1曲4分以内を採点方式で各部門1位〜3位、両部門総合の1位〜3位(グランドチャンピオンシップ)を決めるこの大会。まず子供の部で小杉山智早ちゃん(10歳、大阪府)がグランドチャンピオンに輝くと、10代男子の部で儀間太久実さん(19歳、同)が、さらには成人女性の部で分山さんがそれぞれグランドチャンピオンを獲得。「彼、彼女たちの活躍が口笛の追い風になっている」と話す漆原さんもまたクラシック部門と総合で2位と、出場者の最も多い激戦区・成人男性の部で健闘し、日本口笛界のホープに躍り出た。

そして今月23日、神奈川県で開催される「第3回口笛音楽祭」のチケットも、世界大会出場組が登場する2部はすでに完売するなど「追い風」は相変わらず強く、来年は牛久市で世界大会の開催も決まった。

立ち上げたばかりの日本口笛奏者連盟の活動も多忙を極め、「本当は新作などレパートリーを増やしたいんですけどね。練習はもっぱらタクシーの中です」。

東京都心エリアを担当するタクシードライバーのほか、県内での運転代行を生活の糧とする漆原さんは、もともとアマチュア・オーケストラでトランペットなど管楽器を担当していた。その休憩時間などで吹く口笛が好評を博し、そんな声に乗せられるようにインターネットで同好会を知り、交流会に参加した02年を機に口笛の世界へ。

「口笛?何それ?って言われた時期からすれば今は追い風。でも自分自身の人生はどうなんでしょうね」。

豪放磊落(らいらく)に見える風貌と笑顔。しかし、今日に至る過程は決して順風満帆ではなかった。

神奈川県川崎市に生まれ、クラシックが好きで中学時代は吹奏楽部に在籍。当然、大学も音大を目指したかったが、学費の高さに加え「ピアノを習っていない」。数学が得意で東海大学理学部へ進学するが、研究レベルの数学は好きになれず、後に経済的な理由も引き金となり中退。会社員として高級指輪を作る錺(かざり)職人として腕を振るった。「そのころが一番幸せ。一日中好きな音楽を聴きながら口笛吹いて、指輪作ってさ」。

しかし、バブルの時代には潤っていたその会社も倒産。独立したが仕事ははかばかしくなく、やがて職場はタクシーの車内へと変わる。「狭い車内では、メロディーと口笛が合わないと不協和音を起こす」。人生にも不協和音が生じたが「たとえうまくいかないからって、嘆いてばかりもいられない」。

母親の認知症が進み牛久市に移住したのは昨年2月。止めようもなく落ちていく暗い影を吹き飛ばすように、必死に口笛を吹き続けた。時にささくれ立つ気持ちも、その優しい音色に救われた。タクシー運転手となり10年、そんな日々の積み重ねが今日の美しい音色を生む。

◇   ◇   ◇

分山さんとのセッションを最後に拍手喝采(かっさい)で終わった口笛教室。「やっぱり皆で練習したり音を出すのは楽しいですね」。口笛教室を開く夢は、世界大会で出会ったアメリカ人講師の影響だが、今ほど口笛が認知される以前から口笛を立派な音楽と捉え、活動してきた分山さんの影響も計り知れない。その分山さんは言う。「漆原さんの演奏は安心して聞ける。この安心して聞けるって人が実はなかなかいない。互いの活動ですそ野を広げたいです」。口笛は誰でも吹けるが、その根底にクラシックの素養があるからこそ、しっかりとした「演奏」として聞くことができる。

来年の世界大会では、成人の部に入る儀間さんは強敵となるが、口笛がなければ出会わなかったたくさんの人たちと切磋琢磨(せっさたくま)しつつ、その楽しさを伝え吹き続けるつもりだ。

午後10時。夜の街の光にあふれるJR国立駅で、家路を急ぐ人たちがどこからともなく聞こえてくる美しい音色を探して立ち止まる。そんな様子を知ってか知らずか、帰る道すがら漆原さんたちの口笛は止まらない。曲目は「アメイジング・グレイス」。雄大なメロディーが、雨上がりの街に降り注いだ。

 

 

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